オリンピック・イヤーです。世界の若人がオリンピック発祥の地アテネに集い、力強さ、巧みさ、美しさを競い合います。また寝れない夜が続きそうですね。私たちを魅了してくれる素晴らしい技、それは彼等の潜在的な能力と日々の努力の成果です。今回はスポーツにおける巧みさを考えてみたいと思います。有名選手のプレーを見ていて、何とタイミングがよいことと、感心することがあります。遅くもない早すぎもしない、真にタイミングがぴったりのプレーです。どうしてそのようなタイミングのよい巧みなプレーができるのでしょうか?
そのようなプレーは、2つの能力により構成されると考えられます。

● ひとつは巧みな動作を作り上げるための神経と筋の調整能力です。
● もうひとつは試合場面の的確な認識とプレーを判断する状況認識・判断能力です。


 いくら個人技が優れていても状況の認識・判断能力が劣れば的確な良いプレーを出せません。また逆も然りです。まず前者の神経と筋の調整能力から巧みさを考えてみます。
 スポーツも含めて人間の全動作は、関節を挟んで骨に付着している筋の収縮により起ります。筋の収縮にはエネルギーと神経からの刺激が必要です。巧みな動作とは、目的に応じた動作を遂行するために、その運動遂行に必要な筋群へのエネルギー出力レベルと神経刺激タイミングの巧みな調節よって生み出されます。

● 運動に必要な参加筋群の調整をスペーシングと言います。
● 運動に参加するそれぞれ筋群へのエネルギー出力レベル(力の大きさ)の調整をグレイディングと言います。
● そして、運動に参加する各筋群への収縮の時間的調節をタイミングと言います。


 このスペーシング、グレイディング、タイミングの3つ神経―筋調節がうまく成されることにより巧みな技が生まれます。ぎこちないプレーは、巧みな動作に必要のない筋が運動に関与しているか、或いは必要な筋が使われていないかも知れません。筋が必要以上に力を出し過ぎて、力んでいるのかも知れません。あるいは、筋の収縮時間や収縮のタイミングがスムーズに成されていないのかも知れません。日々の反復練習はこれら3つの調整が無意識に近い状態でできるよう神経―筋の調整能力をトレーニングしているわけです。またプレーの正確さは筋の出力レベルが大きくなるほど劣りますので、プレーの精度を高めるには筋力をアップさせたほうが同じ動作なら相対的な筋出力レベルが小さくなりますので有利です。このことは、バスケットボールのフリーシュートで、トレーニングして筋力を高めるとシュートの成功率が高くなることから理解できると思います。さらにプレーの精度は、そのプレーに関与している筋群の中でもっとも弱い筋に影響されますので、弱点とする筋をトレーニングする必要があります。高さのことなる板で桶を作ると、水面は一番低い板の高さで決まるのと一緒です。このように、プレーに関与する筋群を知り、さらに弱い筋を知りトレーニングすることが大切です。
 日々の練習成果として、巧みなプレーが無意識にできるようになっても、それがゲームの中で使える必要があります。ゲームの場面では相手がおり、思うようにさせてくれません。また得点差、残り時間、敵・味方の動きと自分の位置関係等試合の状況を正確に認識し、その状況に最も適したプレーを決定しなければなりません。これらの的確な状況認識・判断が出来て始めて巧みなタイミングのよいプレーとなるわけです。このような状況認識・判断能力は、いわゆる出力が主となるトレーニング・練習だけでは身につきません。ビジュアルトレーニングやそのスポーツの知識や情報を収集したりする入力系のトレーニングも大切です。その上で、普段の練習の姿勢として、単にメニューをこなすだけでなく、自ら課題を実際の場面をイメージしてトレーニング・練習に望む姿勢が大切です。巧みな技・タイミングよいプレーは、単にコーチに言われて練習をするだけでは身につくものではなく、選手自ら自覚し考えてトレーニング・練習に臨むことにより獲得できるものではないでしょうか。

 

文/平川 和文(Kazufumi HIRAKAWA) 神戸大学発達科学部教授
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