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トレーニングの原則(その1)
これ(前号)まで、運動の種類と特性、運動処方作成の基本となる考え方、日々の運動を安全に実施するための運動の組み立てと留意点等についてお話してきました。それらの内容は、基本的には疾病・障害のない一般健康成人を対象とした、安全で効果的な運動プログラム作成のためのモデルケースとしてです。
しかし、実際の健康運動では疾患の有無や老若男女などの個人差があり、それぞれに適した健康増進・体力増強の方法があるはずです。また運動実施に際しては、個人の身体的状況の他に、暑さ寒さ、実施時間・場所、栄養と休養などの外的環境条件にも留意しなければなりません。即ち、いろんな人たちが日々変化する運動実施条件下で安全で効果的な運動を実施するためには、今まで述べてきた運動処方の基本原則を参考にオリジナリティなトレーニングメニュへと修正する必要があると言うことです。
今回からは、このような身体の内的・外的環境条件と運動(トレーニング)についてお話をします。それでは最初に、身体能力の改善のための健康運動として、10項目のトレーニングの原則を紹介します。
(1)過負荷の原則 (2)個別性の原則
(3)漸進性の原則 (4)継続性の原則
(5)全身性の原則 (6)自覚性の原則
(7)栄養補給と休養の原則 (8)生体の日内・季節リズム
(9)性、年齢、病態との関連 (10)環境条件との関連
と、なります。
その中でも大ざっぱに分けますと、(1)〜(6)(9)は身体の内的環境条件、(7)(8)(10)は外的環境条件に関する原則となります。今後、順に各原則の説明を進めていきたいと思っています。
今回は(1)過負荷の原則(オーバーロード トレーニング:overload training)についてお話します。その関連でトレーニングのやり過ぎが主な原因であるオーバートレーニング(overtraining)についてもお話します。オーバーロードトレーニングとオーバートレーニング、単語一つの違いで大違いです。
(1)過負荷の原則は、前にもこのスポーツミニ知識でお話しましたが、日常の身体活動水準より大きな負荷の運動をすることによりトレーニング効果が得られると言う、トレーニングの大原則です。過負荷がかかっていない安静な日常生活が健康・体力水準を低下させ、今日の健康問題を生じさせています。この過負荷は大きい程、得られる効果も大きいと言われています。
しかし、身体にとって大きな過負荷がかけられ続け、その上疲労回復に必要な適切な栄養と休養が与えられなかった場合には、身体の健康バランスが乱れ、運動への気力も衰え、パフォーマンスが向上しないばかりか低下する状態に陥ります。この状態をオーバートレーニングに陥ったと言います。いわゆる慢性疲労症候群とも、燃え尽き症候群とも、あるいはスタルネスとも言われます。原因は、過度な運動負荷と不十分な栄養と休養による身体の不適応です。運動の質と量、疲労回復程度の兼ね合いが難しいところなのです。頑張ってトレーニングを続けるうちに、いつの間にか疲労が蓄積しオーバートレーニング状態のままでいると怪我につながる危険性もあるということです。
では、オーバートレーニングを予防するにはどうすればよいのでしょうか。「慢性疲労をチェックする指標はないものか?。」と思われるかと思いますが、今のところ一目でオーバートレーニングであるというサインは報告されておりません。しかし、いろんな症状が現れます。安静・運動・回復時の心拍数の変化、臥位と立位時の心拍数の差の拡大、基礎体温の上昇、呼吸数の増加、運動の効率の低下、体重の減少、運動時血中乳酸の増加、口渇感、食欲減退等・・・・。また、これらの症状の現れ方には個人差もありますし、運動の質と量の違いによっても異なります。
それでは「どのようにして日頃オーバートレーニングかどうかをチェックすればよいのか」と、お思いになるでしょう。そのための簡易な方法として、毎日規則的に運動を実施している人は、最低トレーニング日誌をつけ、体重・体温の変化、臥位と立位の安静時心拍数の違い、睡眠の時間と質、トレーニングの質・量の変化と達成度ならびに意欲等を記録して下さい。そして、それらの数値の日々の変化に注目しマイナス要素となる変化が認められた場合は要注意です。さらに個人の身体の疲労回復の指標として、朝起きたときの疲労程度を知る自分なりの指標を持って欲しいと思います。そのような観点からのオーバートレーニングのチェック方法として、心理的プロフィールテスト(POMS)と言うものもありますが、要は自分なりのコンディション・チェック法をもってほしいということです。
オーバートレーニングに陥ると、長期間に渡って記録の向上が見られないばかりか、極端な場合は選手生命をダメにすることさえあります。私も昔普通の市民ランナーなのに長距離トレーニングに夢中になって消化器系が完全に不適応を起こし、数週間食欲もなく下痢状態が続いた経験があります。健康運動レベルでオーバートレーニングに陥る人は余りいないと思いますが、安全で効果的な運動実施という観点から是非知っておいて欲しい事柄です。オーバートレーニングの予防は、適切な運動と栄養・休養の3つのバランスです。 |
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文/平川 和文(Kazufumi HIRAKAWA) 神戸大学発達科学部教授
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