 |
|
2001世界スーパージュニアテニス選手権大会 少年・少女シングルス決勝を観戦して(2001年10月)
|
 |
 |
秋晴れの下、大阪市うつぼテニスセンターに詰めかけた多くのファンの前に二人の少女が姿を現すとスタンドから歓声がおこった。多くのファンはこの大会で活躍した選手が2、3年後にはトッププロ選手になることを知っている。98年に優勝したドキッチの存在で、この大会が広く知られるきっかけとなった。 一方、選手もプロの扉の前にいることは自覚しているのか緊張した面持ちでセンターコートで練習を始めた。2001年少女シングルスは、エヴァ・ビルネロヴァ(チェコ)第3シード・世界ランキング5位とフィラグ・ネメス(ハンガリー)第4シード・世界ランキング13位で争われる。
今大会の少女シングルスには注目を集めていた二人の選手がいた。
第1シードのS・クズネツォヴァ(ロシア:世界ランキング2位)と第2シードのM・バートリー(フランス:世界ランキング3位)である。彼女たちは9月ニューヨークで行われたUSオープンジュニアのファイナリストであり、その試合は4−6、6−3、6−4でM・バートリーが優勝している。大阪でも彼女たちのファイナル進出が大方の予想であり見所でもあった。準決勝まで1セットも落とさずに順調に勝ちあがっている彼女たちの力は抜けているようにすら感じた。
しかし、準決勝でビルネロヴァがクズネツォヴァを7−5、6−4のストレートで破った。さらにネメスがバートリーから1−6、6−3、6−2の逆転で勝利を収めた。これは大会ディレクターも驚いていた。ひと夏を超えたジュニア選手の成長は時に目覚しいものがあると言うことだろう。決勝を前にファイナリストのプロフィールを見ていると二人に共通する興味深いデータを発見した。それは今までにグループAレベル(最高レベル)のトーナメントで準優勝の経験があったことである。そう、今日どちらかが念願の初優勝をするのである!
|
第1セットはガッツあふれるネメスがゲームを引っ張って5−3とリードしネメスのサービスで第9ゲームを迎えた。このゲームをキープして1セット目を取ると優位に試合を進められる。優勝に一歩近づく・・・。そんなことを考えたのか?動きに硬さが見られようになった。そんな心を見透かされたのか、年上ビルネロヴァの意地の逆襲に合い4ゲーム続けて落とすことになる。結局5−7でビルネロヴァが1セット目を取った。
第1セットの悪夢が信じられないのか、ミスが続きイライラしているネメスは第2セットの立ち上がりもサービスエースの後に連続して2つのダブルフォルトと不安定であった。実力差があればここで一気にゲームを決めるチャンスなのだが、今度はビルネロヴァにプレッシャーが襲いかかった。お互いサービスゲームをキープできない荒れたゲームの中、先に冷静さを取り戻したのは、粘り強くボールを拾い続けたネメスであった。第2セットは6−3でネメスが取り返した。
さあ、第3セットを取ったほうが初の栄冠を手にできる緊張したゲームになってきた。両者の実力は互角と思われる。勝利への執念がゲームの行方を左右しそうだ。第3セットは打って変わって緊迫するキープ合戦となった。1−1。2−2。3−3。先にブレイクしたほうが勝利に近づくことになる。4−3となりネメスサービスの第8ゲームに試合は動いた。ビルネロヴァがネットプレーに出てバックボレーで勝負をかけた。勝負どころで今日一番決まっているバックハンドに活路を見出した。ネメスはペースをくずし、防戦一方になった。最後は6−3でビルネロヴァが勝利を収めた。
試合後、インタビューでビルネロヴァは「今日はタフな試合だった。ネメスの調子はよかったし、なにより試合に勝てば世界ランキング1位になれるのは分かっていた。そうなりたいと考えたら昨晩あまり眠れなかった」と。グループAの大会で初優勝し、世界ランキング1位になった彼女は大きなプレッシャーに打ち勝った満足な顔をしていた。そういえば、プロフィールの趣味の欄には「音楽を聞くこと 寝ること」と書いてあった。
|
|
|
続いて行われた少年シングルスの決勝はテニス界のニュースター誕生を期待できる試合であった。
その名前はマルコス・バグダチス(キプロス)16歳。 第5シード・世界ランキング26位。地中海に浮かぶ島国のキプロス共和国はギリシャ神話伝承の国で、現在はヨーロッパのリゾート地だそうである。まだ16歳とは思えない容姿体格に、力強いサーブとトリッキーなドロップショットやジャンピングショットなど緩急自在なプレースタイルである。そのバグダチスは準々決勝で優勝候補の第1シード・世界ランキング1位G・ミューラー(ルクセンブルグ)に勝ち気分を良くし、続く準決勝でも世界ランキング4位のYT・ワン(台北)をストレートで撃破、今大会の台風の目となった。
一方、ヤンコ・チプサレビッチ(ユーゴスラビア)17歳。第2シード・世界ランキング2位。彼は昨年この大会でシングルスをベスト8、ダブルスを優勝している馴染みのある顔である。その後、着実に実力上げ今年は世界ランキング1位を狙える位置にいる。今大会は危なげなく勝ち進み、準決勝でも世界ランキング8位のL・オアハブ(アルジェリア)を6−1、6−4のストレートで退けた。冷静で安定したテニスをするチプサレビッチは大人びた雰囲気を持っている。「この大会に優勝して世界ランキング1位になりたい。」と、静かな闘志を燃やしていた。
今年の少年シングルス決勝は、天才的だがまだ荒削りのバグダチスと二枚目の優等生チプサレビッチの対戦となった。
第1セット。のっけからブレイク・ブレイクバックで幕を開けたゲームは荒れ模様を予感させるものであった。あわせて5度のブレイクの末、バグダチスが7−5で先取した。180K/mは出ていると思われるサーブを武器に押してくるバグダチスは、チプサレビッチの基本に忠実なベースラインで打ち合いにしびれを切らしネットにかけてしまう場面も多い。だが、セオリーを無視したかのようなところに打ち返されるバグダチスの変幻ショットにチプサレビッチは戸惑いを感じているようであった。
2セット目も出入りの激しいゲーム展開でバグダチスが4−1とリードしたかと思うとチプサレビッチも盛り返し、またもや5−5に並んだ。特に同点に並んだ第10ゲームのチプサレビッチは、サービスゲームながら0−40のトリプルマッチポイントまで追い込まれてしまう。そこから神がかり的な5連続ポイントで逆転のキープでタイブレイクに持ち込んだ。
さらに次の第11ゲームでは終わりのないような死闘が繰り広げられた。それぞれの心情はプレーに反映され、観客にも伝わった。
優勝目前から決められないバグダチスは早くゲームに勝ちたい気持ちが焦りをよび、できれば得意サーブ一発で決めたい思いがあらわれ荒っぽい組み立てになっていた。 対するチプサレビッチはもう後がない劣勢の中、タイブレークまで追いついてきたことでさらに冷静さを増し、不敵な笑みさえうかべていた。増長されていく緊張感、繰り返されるデュースのコールは9回にもおよび、その間アドバンテージはシーソーのように揺れ動いた。満身創痍の中、このゲーム37本ものサーブを打ち続けたバグダチスに勝利の女神は微笑んだ。
第12ゲーム。驚異の追い上げを再三見せてきたチプサレビッチも力尽きたのか、最後は自らのダブルフォルトで終止符は打つことになった。ボールがネットに引っかかった瞬間、あっけない熱戦の幕切れと解き放たれた緊張感のゆるみからかバグダチスはラケットを落とし、両手で顔を被い天を仰いだ。そして最高の笑顔でポロシャツに祝福のキスをした。この大会上位ランカーを撃破してきたラッキーアイテムである黄色のポロシャツが靱テニスセンターで黄金色に輝いた。
|
|
|
|
 |
|