10月13日、朝9時の開門前から静かな熱気とでもいうような緊張感が立ち込めていた。少年・少女共に日本勢がファイナルに勝ちあがる快挙に興奮し、さらにアベック優勝を応援しようというファンの熱気は例年の海外トップ選手による戦いを見るのとは違う雰囲気。そうホームゲームの雰囲気で会場は満たされようとしていた。

BOYS SINGLES FINAL BALAZS,Gyorgy(HUN)VS SOEDA,Go(JPN)

バラスのブレイクでファイナルの幕は切られた。秋晴れの下、朝から靱テニスセンターに詰め掛けたファンは約1000人にもなった。その99%は添田 豪と不田 涼子の優勝を期待している。
少年シングルスでは'94年の鈴木貴男以来の優勝になり日本テニス界待望の新星誕生となる。しかし添田の立ち上がりは動きが硬く明らかにプレッシャーに襲われている様子であった。4−0と良い所がないままリードを許し,どうにか1ゲームキープできたところでコートチェンジの休憩にベンチに戻った。スタンドも冷めてあきらめムードになろうとしていた。添田は頭からタオルを被り90秒のレスト中自分の世界にこもった。

 そうして再開されたゲームは添田がブレイクし4−2となる。彼の動きが明らかに先ほどまでと違っていた。自問によってプレッシャーのコントロールができたようでショットのスピードが上がりネットプレーも決まるようになってきた。挑んでいく姿勢を取り戻し、彼本来のテニスがよみがえったようだ。1セットは結局6−2でバラスが取ったが勢いは添田に傾こうとしているのは分かった。

 第2セットはあっという間に0−3と添田がリードを奪い、第1セットの苦戦が別人のようにコート上をのびのびと躍動し1−6で取った。流れは完全に変わってしまいバラスは添田に注がれる拍手にアウェーを感じて意気消沈気味である。

 第3セットも1−5と添田の楽勝ムードで迎えた第7ゲーム。あと1ゲームで試合が決まる場面になって勝利の女神は日本の挑戦者に試練を、そしてアウェーで孤軍奮闘のハンガリアンにはチャンスを与えたのである。緊張感が高まる中、先に添田に変化が見られた。優勝目前にしてプレッシャーという試練に再び立ち向かされて動きが硬くなってきた。逆にバラスは開き直って思い切りサーブを打ち込みエースを奪うことで活路を見出した。ストレートで第7ゲームを取り2−5になる。流れは変りそうだが4ゲームも差があったので、選手本人も観客も添田が逃げ切り優勝をすると思っていたことだろう。が、しかし添田は2度のサービスゲームに失敗し5−5に並ばれると迷いがなくなっているバラスに勢いで押し切られ6ゲーム連続で落とし7−5でバラスが大逆転勝利したのである。狐に抓まれたようなとは正にこのことを言うのだろう。タオルを被ってから優勝目前までコントロールできたプレッシャーも最後の1ゲームまで持たなかったということか。負けた添田、勝ったバラスも今までにない経験をしたことだろう。思えば昨年のバグダチスも一昨年のヨハンソンも最後まで苦しんでそれを乗り越えて優勝した。それだけ難しいトーナメントでありグループAのグレードなのだろう。まだ添田にはその力がないということになる。惜しかったというより良い経験として今後に是非生かして欲しい。

 

GIRLS SINGLES FINAL SAFAROVA,Lucie(CZE) VS FUDA,Ryoko(JPN)

 やや騒然とした会場の雰囲気をかき消すように不田がストレートであっさりキープし、こちらは滑り出し上々で少女シングルス決勝が始まった。不田は立ち上がりから全力でゲームに挑み、主導権を譲らない姿勢に見える。それには考えられる理由があった。彼女の左脚大腿部に施されてあるテーピングは前日の準決勝(対フラワコワ戦)での故障をかばったものである。今日は当然、長期戦を避けたいことだろう。「勝っても負けても2−0だ!」と言わんばかりの覇気が漲っている。 一方、サファロワは第1シードから順調に勝ち上がってきた実力者で細身の身体からは信じられないくらいの強いショットが武器である。

 第1セットは見た目にはお互いミスがポイントにつながっていく展開であったが、それは不田の戦術が利いている証拠と言えた。故障のことからも左右に振られたくない不田は思い切り良くベースライン際への深いショットを力強く打ち込んでいくことでサファロワに自由なコントロールを許さない。そのかわり、きわどいショットを思い切って打つのでネットやアウトのリスクも高まるが、普通の打ち合いでは分が悪いと踏んだのであろう。功を奏して4−6で不田が取った。

 第2セットも同様のテニスが続くが3−3になったころから不田が脚を気にするしぐさを見せ始める。3−4不田リードで迎えた第8ゲームに勝負どころがあった。サファロワのサービスゲームを15−40とブレイク寸前まで追い込んでおきながらラリーの応酬の末、粘りこまれてこのゲームを落とし4−4となる。目前の3−5がタイにされたことからか不田の集中力が失われ、押さえ込んでいた脚の痛みもあるのだろうプレーに積極性がなくなっていった。6−4でサファロワが取り返した。

 第3セット流れはサファロワにあったが彼女も疲労しているのか決め手がない。不田も元気なら付け入る隙はありそうだが・・・ゲームは進み4−1でリードはサファロワ。ここで不田にスモールプレゼントがあった。コートチェンジのレストが終わりコートに戻る不田に「がんばれ!」の声援と拍手が起こる。神戸出身の彼女にはここはホームでの戦いと言える。会場からの応援を受けて一矢でも報いたいという気持ちになったのか、彼女を甦らせるきっかけとなったようだ。後手に回っていたテニスを立て直し、生命線であったベースラインへのショットが強くなっていく。そして4ゲーム連続で取り戻すと会場と一体感のある雰囲気が出来上がっていった。6−6にまでもつれタイブレークに突入するが、サポーターの後押しも手伝って不田は'95年井上青香以来7人目の日本人チャンピオンに輝いた。この大会後の世界ジュニアランクは66位から17位に上がった。まだ15歳、是非とも来年少女シングルス初の2連覇に挑戦してほしい。会場に来たテニスファンは不田サポーターになった日であった。


 
 
2002世界スーパージュニアテニス選手権大会 
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