< 2003世界スーパージュニアテニス選手権大会を観戦して >
Girl's Singles Final
Veronika Chvojkova ベロニカ・フボイコバ(チェコ) 世界ランク46位 今大会第8シード
Andrea Hlavachova アンドレア・ハラバチュコバ(チェコ) 世界ランク10位 今大会第2シード
 10月12日(日)秋の朝の爽やかさはなく、湿気を含んだ生温い空気が身体にまとわりついてくる。靱テニスセンター上空を覆う倦怠的な雨雲は、昨晩から延々と通過している秋雨前線でいつ天候が崩れてもおかしくない。
 2003世界スーパージュニアテニス・少女シングルス決勝はチェコ人同士の対戦となった。日本で言えば二人とも高校2年生にあたる16歳のベロニカ・フボイコバ(世界ランク46位)と17歳のアンドレア・ハラバチュコバ(世界ランク10位)である。二人は今大会すでに大きな仕事を成し遂げている 。
 フボイコバは、このスーパージュニアテニスのようなグループAと言われる最高レベルのトーナメントには初出場であったにも係わらず、快進撃を続け準決勝ではトップシードの優勝候補エマ・ライネ(フィンランド:世界ランク5位)を6−4 4−6 6−4と2時間半にもわたる大接戦の末に撃破した。
こうしていきなり決勝のステージまで登りつめた今大会のシンデレラガールである。
一方、ハラバチュコバは三年連続でスーパージュニアテニスに参加している。
2001年大会は3回戦、2002年大会はベスト4と着実に成長し、今年の決勝進出につながった。そして昨日の少女ダブルス決勝ではエマ・ライネとのコンビで見事優勝を果たし、ダブルス世界ランク1位をの実力を見せてくれた。今日シングルスも勝てば二冠となる。

少女二冠は2000年にチェコのヴォラコバや1991年の杉山 愛など過去6人が達成している。
 チェコ対決、「シンデレラガール・フボイコバ」と「二冠への挑戦者・ハラバチュコバ」の対戦が始まった。

 第1セットは互いに手堅くキープから幕を開けたが、第4ゲームにフボイコバがブレイクに成功しリードする。続く第5、6ゲームも連取しセットポイント5−1を迎えた。実績上位のハラバチュコバは精度の悪いショットや、ボレーで決められるところでもネット際へのドロップショットにしたりと消極的なプレーが随所に目立つ。また、ラリーの後には手を膝についてしばらく動けないほどコンディションは悪そうで、右肩にしているテーピングもしきりに気にしている。
 そのように集中力を欠いている相手をよそにフボイコバは初めての大舞台とは思えないくらい堂々と自分らしさを発揮しはじめた。格上挑戦でもよく知った相手とくれば、それほどナーバスになることも少ないのだろう。あっさりと6−2で第1セットを取った。
  ハラバチュコバはセット間のレストにテーピングのやり直しをトレーナーから施してもらっている。そういえば昨日のダブルスは途中、雨天中断を経て夜の七時半までかかるタフな試合であった。そして15時間後の今またコートに立っているのだから疲労が抜けているはずはない。
第2セットは一転してブレイク合戦で始まった。
何とか挽回を図りたいハラバチュコバは、今日の自分にできる限りのプレーを探るような意気込みが伝わってくる。17歳にして試合を投げ出さず、ベストを尽くそうとするスピリットは彼女の今までの豊富なキャリアと将来のプロへの目標がそうさせるのだろう。
 
一つ象徴的だったシーンが第2セット始まってすぐにあった。
ハラバチュコバがラリーを優勢に展開し、ついにチャンスボールが返ってきた。スマッシュを決めてポイントゲットというところで、振り上げた腕に力が入らずネットに引っ掛けてしまう。
そして小さく押し殺した悲鳴とともに右肩を押さえた。普通ここまでコンディションが悪いとゲームは敗戦濃厚だ。観客のほとんどがそんなことを直感しただろう。
  しかし逆に、そこからのハラバチュコバの反撃は鮮やかだった。前に詰めてのプレーができないなら、ベースラインで打ち合いに徹するというプレースタイルに集中し始めたのである。勝利の方程式が解けたように急にリズムを取り戻し2ゲーム目から一気に5ゲームを打ち勝って、わずか25分ほどで第2セットを1−6で獲得した。これでセットカウントは1−1になった。
 最終第3セット、勝利への波は二人の間を何度も行き来して4−4までゲームは進む。勝ちへの思いは執念へと変化していくのが二人の形相から伝わってくる。壮絶な打ち合いによる緊張感と集中力は、コートから溢れだしスタジアム全体を満たしていく。近づいてきているはずの決着の時は、実はまだまだ先にあるかのように続く打ち合い。そんな息詰まる時、突然天からの水入りの如く小雨が降り始めた。審判がコートの状況を確認したり両者に試合続行の意思を聞いたりして、わずかな休息時間が生じた。勝負の行方を見守っていたスタンドも緊張感から解かれ、満たされていた熱気が冷めて行く。
一息入った・・。このまま続行か。集中力を持続しないと。残された体力は・・?
 そんなことを自問できる少しの冷静な時間がこの勝負をわけたのかもしれない。小雨はすぐに止み試合は再開された。しかしハラバチュコバは先ほどまでと同じようには身体が動かなかった。身体が少し冷めてしまったのかもしれない。心が少しぬれてしまったのかもしれない。試合は第9、10ゲームともハラバチュコバは1ポイントを取るのが精一杯。一方フボイコバは優勝目前にしても最後まで気を抜かず一歩一歩勝利へ進んで行く。第3セットはフボイコバが6−4でゲームを押し切った。とうとうシンデレラガールは女王への階段を登りきったのだ。

 試合後、フボイコバは「大変だったけど、夢のような一週間だった。今はとにかくうれしい。」とビッグタイトル獲得と世界ランクトップテン入りを喜んでいた。それとは対照的にベンチにしばらく座ったまま放心状態のハラバチュコバが印象的であった。
Boy's Singles Final
Marcos Baghdatis マルコス・バグダチス(キプロス) 世界ランク1位 今大会第1シード
Jo-Wiifrieed Tsonga ジョーウィルフレッド・ソンガ(フランス) 世界ランク3位 今大会第3シード
 トーナメント表の両端に陣取る第1シードのマルコス・バグダチス(世界ランク1位)と第2シードのジョーウィルフレッド・ソンガ(世界ランク3位)。予想通りの役者で少年シングルス決勝が争われる。参加64選手中でこの2選手の力が断然抜けているのは、トーナメントが進むにつれてよりはっきりして行った。どちらも歴代優勝者と比較しても実力は遜色ないだろう。

 今シーズン9月に行われた全米ジュニアでこの二人は決勝を戦っており、その時はソンガが2−0で優勝している。1月の全豪ジュニアでは準決勝で顔を合わせてバグダチスが2−0で勝ち、その大会も制している。両者ともハードコートは得意にしており決着をつける舞台として、大阪での世界スーパージュニアテニスと靱のコートに不足はないだろう。

 第1セットからエンジン全開の二人のプレーは、もはやジュニアの域を超えており、かつてないレベルの決勝であることはすぐに観客に伝わった。「全豪ジュニアチャンピオン」と「全米ジュニアチャンピオン」の世界ランク1位の王座をめぐっての戦いである。まさしくスーパージュニアなレベルのスピードとテクニックの連続にスタジアムもヒートアップしていく。サーブやショットの威力はソンガのほうがやや強いが、ゲームの組み立てではバグダチスのセンスが光る。互いに持ち味を出しつつ、かつ消しあいながら6−6になりタイブレイクへともつれた。

 

 ここまでは互角であったが7ポイント先取のタイブレイク戦では、サーブと言う一撃必殺の武器があるソンガ有利にゲームが進む。2本のエースを含め1-6まで一気にソンガがリードし、あと1ポイントとした。勝負の世界では拮抗していたゲームが崩れはじめると、最後は以外にも大差で決着することがある。ソンガがこのまま圧倒的にタイブレイクを制すれば、優勝に大きく近づく可能性は高かった。

  しかしスリリングな場面でこそバグダチスの天才ぶりが輝きだす。彼は追い込まれるほど素晴しいプレーができるところがある。現にそんなシーンを今大会も何度も目撃している。絶対ミスできないところでも躊躇なく攻め、そして決める。度胸のよさ以上の成功率は無類の勝負強さを感じる。あっという間に4ポイントを取り返してみせ5-6まで詰め寄った。最後はネット際でバグダチスがボレーを決めたかに見えたが、かろうじて反応したソンガのラケットにボールは弾かれ、偶然のロブが第1セットをソンガ勝利で終わらせた。必死にロブを追いかけたバグダチスは相当悔しい様子、一方ソンガはなんとか逃げ切れたホッとした顔でベンチについた。
 第1セットは落としたが、バグダチスが試合を引っ張り始めている。そんな雰囲気で第2セットが始まった。
開始早々にブレイクされ3−0とリードを許すソンガは自分のリズムでない試合展開にイライラを隠せない。ペースチェンジのきっかけが欲しいところだが、バグダチスはペースを緩めるどころか、どんどんテンポアップしていく。ショットが決まってボールパー ソンがボールを拾って所定の位置に戻り始めた頃には、もう次のサーブのモーションに入っている。それは自らのファーストサーブをネットに引っ掛けようが、ソンガにパッシングショットを決められようがそのペースは変わらない。この一度引き寄せた試合の主導権は譲らないという強い意思はトップジュニアとして培った勝利への秘訣なのだろう。一時間もかかった第1セットの接戦に比べて、わずか30分で第2セットは6−3でバグダチスが取り返した。

 第3セットはソンガのサーブから始まった。タイスコアになったとはいえ彼もあきらめたわけではない。打球の威力はまだまだ健在でコーナーに決まるとバグダチスといえどラケットに捕らえることができない。流れを取り戻したいソンガは強打で押しまくりバグダチスに自由なショットをさせまいとする。しかしバグダチスも乱されるまいと独自のテンポを刻み続ける。そんな早いペースで進んでいく。互いにキープを積み上げていくのは第1セットと似ているが、内容は全く違うテニスで、盾は捨てて矛だけて戦っているといった印象である。なんと3−3までの6ゲーム中、相手に1ポイントも与えないストレートでのゲームが4つも起きたのだから。

 そして試合が動いたのはソンガのサーブの第7ゲームであった。40-30ともつれた最後をソンガはダブルフォルトで落としてしまう。続く第8ゲームをバグダチスはここが勝負所と感じたのか、またも一気にストレートでキープし5−3となる。
バグダチスはソンガの強打に対して逆に緩急をつけたり、ドライブ回転をかけたボールで正確にショットさせないようにして、ここでもきっちり応戦してみせた。テニス関係者から柔軟な手首の使い方、ラケット面の使い方は天才的と言わしめるプレーを垣間見ることができた。守勢にまわったソンガは、もはや敵ではないかのようにファイナルゲームもストレートでブレイクし6−3でこのセットを取り、一年ぶり二度目の世界スーパージュニアテニスの優勝カップを手にしたのであった。

 勝利が決まった瞬間バグダチスはコートに大の字になって喜びをあらわにし、そしてコーチと抱き合っていた。これで世界ランク1位を死守し年間チャンピオンに大きく前進した。敗れたソンガも2位となり逆転の望みをつないでいる。二人の戦いはまだ続くようだ。


文/熊谷直裕 (財)大阪市体育協会 国際競技推進課
少年シングルス 表彰式
左:準優勝 ジョーウィルフレッド・ソンガ
右: 優勝 マルコス・バグダチス
 
少女シングルス表彰式
左: 優勝 ベロニカ・フロイコバ
右:準優勝 アンドレア・ハラバチュコバ
 
左からソンガ、フボイコバ、ハラバチュココバ、バグダチス
 
バグダチスとフボイコバ
 
 
 
 

2003世界スーパージュニアテニス選手権大会 
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