小出義雄監督


1月26日、大阪市民のスポーツの普及振興を一層進めるため、スポーツ関係諸団体の代表者が一堂に会して、「新春懇話会」(主催 財団法人大阪市体育協会、財団法人大阪市スポーツ振興協会)が開催されました。 その中で、先のシドニーオリンピックにおいて、オリンピック女子陸上界で初めて金メダルを獲得する偉業を成し遂げられた高橋尚子選手を始め、女子陸上長距離界で目覚しい活躍をする数多くの選手を育ててこられた小出義雄監督に「小出義雄流 人育て術」といった演題でご講演を頂きました。1時間に渡るユーモアたっぷりで、熱のこもったお話に小出監督の思いががひしひしと伝わってきました。

 

    演題 「小出義雄流 人育て術」

「かけっこ」への道

 おかげさまで、、、、、 僕が一番得しているのは、いいタイミングでの「出会い」です。
  僕は、かけっこが大好きです。
小学校の先生に運動を、中学生の頃に陸上というものに巡りあわせてもらい「小出!お前はすごいな。将来は箱根駅伝やオリンピックへ行け!」の恩師の声が頭から離れず現在にいたります。女房にズボンを縫ってもらうと、「裾を切った分でもう一本ズボンができるわよ」と言って笑われるぐらいの、短い足の僕に「オリンピックへ行け!」などと言って「夢」をくれた恩師に感謝しています。
高校でもがんばってかけっこをし、卒業後は、一旦は家を継ぎ百姓をしていました。しかし、ある時「一度しかない人生、自分の人生なんだ、人間の人生あっという間に終わるのなら、自分の好きなようにやりたい」と箱根駅伝に憧れていた僕は19歳の時、親に内緒で上京したのです。
       
    23年の教員生活で

おかげさまで、、、、
 僕は、多くの生徒・選手と巡りあいました。その中でたくさんのことを学びました。
学ばせてくれたのは、人との巡りあいだけではありません。上京後は、よく競馬場にも通ったものです。馬の走り方からフォームを学び、コーナーの周り方の差で勝敗が決まったりするのです。馬で陸上競技(かけっこ)のヒントをもらいました。ヒントはいろんな所にあるものですね。
 その後、順天堂大学に入学し、卒業後はある進学校の教師となりました。
かけっこばかりしていた僕が教師だなんて、自分で驚いていたぐらいです。
黒板に文字を書いていると、生徒に「先生、その字間違っていますよ」などと、逆に生徒にいろいろ教えてもらいました。

  ある日、女の子が「砲丸投げをやりたいので、練習はどれぐらいしたらいいですか?」と入部してきました。僕は彼女に「毎日120本投げる」という練習を2年半させました。その結果彼女は、関東で見事に優勝したのです。当時、砲丸投げの練習量平均は毎日約30本でした。その4倍の120本を毎日練習したのですから、当然といえる結果でしょう。試験中であろうが、工事中でグランドが使えなかろうが、近所の松林を一緒にかけっこしたのです。そんな生徒達が日本最高記録という見事な結果を残してくれました。
たとえ試験中であっても練習していた訳ですから、学業においては、赤点続出でした。
しかし当時の赤点生徒が今では企業の管理職や教頭先生になっているのですから不思議なことです。

  次に勤めさせていただいたのもある進学校でした。生徒を集めるのには苦労しましたが、進学校だからといって勝てないことはない!と信じ、結果、見事に千葉県駅伝で初優勝です。次に勤めた市立船橋高校では、就任2年目でインターハイ出場、そして駅伝初出場、3年目では高校駅伝新記録で優勝しました。

  教員生活で学んだことは、「人間には土台(練習)が必要。規定(ルール)はないのだ」ということです。もう1つは、あるインターハイ予選で負けた生徒をある教師が「だめじゃないか!根性がないな!」と怒鳴りつけていました。負けようと思って走っている生徒はいません。その時僕は、監督の指導能力のなさで負けたんじゃないの?と考えました。その時から私は、むやみに生徒を怒鳴ったり怒ったりするのはやめました。
よく頑張っているなぁ、よく走れるなぁ、大丈夫だよ。するとねんざしている生徒までが区間2位の成績で走れるのですから、怒って伸びる子、怒ると伸びない子、人間にはいろいろな性格があります。
       
    スポーツは結果が勝負

 おかげさまで、高橋尚子が金メダルをとることができました。
 スポーツは人生と同じで最後「結果」が勝負なのです。
どんなにいい理屈を唱えても、どんなにいい事いっても、最後結果がでなかったらしょうがない。
まず金メダルを取るには「柱」が必要なのです。

 一番の柱は、身体がしっかりしていること。
身体がしっかりしていないと、気力がでません。何としてでも「世界に勝つ」という気力です。それには「栄養」が大切となります。世界のトップの栄養を調べてみるとある1つの法則がありました。それは「いいもの食べる」です。食べ物を世界一にすることによって世界一の身体(血)ができ、世界一の気力が湧いてくるのです。

  二番目の柱は、練習する場所です。
練習場が松林や車の多い田んぼでも高校新記録が出たように以前はどこでもいいと思っていました。しかしケニアなどの選手を見ていると高地トレーニングをしていました。100人監督がいたら100通りの練習方法がありますから、高地がいい、平地がいいといろいろな意見はあります。私は、標高1600mの場所での高地トレーニングを2ヶ月行い、3000mの場所で走って、帰ってきて平地で走ると楽で楽で。空港をおりてすぐわかるぐらいです。高地と平地との差を身体で覚えさせました。身体で覚えるトレーニング、練習場も大切なのだと痛感しました。
水分もそうです。
僕の時代は練習中に水を飲もうとすると根性がないな!と怒られました。
しかし今は違います。人間の身体は日々変化するものですから、熱い所であってもきっちりと水を補給し飲ませながら走らせると体温が40度になっても体温調節できますからね。

 三番目の柱は、休養です。
疲労回復には寝ることも大切なのです。ということは、布団も大切なのです。高橋尚子もアメリカで特注した敷き布団で寝かせていたぐらいです。

 現在、昭和30年代の「スポーツは根性!」という時代ではありません。スポーツは根性でするものではないのです。根性でだれでも勝てるのなら皆が優勝です。スポーツにはきっちりとした裏づけがあり、土台(ルール)があって初めて結果がでるのです。身体のルールが解っていれば、必ず勝てるのです。
     

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